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その夜勤帯はとりあえず、今だ廊下に立ったままの山中さんとは目を合わせることなく過ごした。ほかに看護師がいる状態だと、無駄にナースコールを押したりもしないのでよかった。だが、私が視えていることは明らかに向こうにばれているので、無視をするのがこれまで以上に心苦しい。
業務が忙しいと彼のことも頭から抜けてしまうが、ふとした時に思い出してしまう『見てほしい』の言葉。そして、あの悲し気な顔。私に何かしてほしいのは明らか。
かといって、また話しかけるほど愚か者ではない。
朝方になり仕事を上がる。へとへとになりながら病棟に別れを告げ、棒になった足を酷使しながら自宅へとたどり着く。
空は青く、いい天気だった。普通の人たちは今から仕事なのだ。夜勤って、こういうときの解放感は凄まじい。今から私は美味しいものを食べて寝るのだぞ! 明日は休みなんだぞ! 叫びだしたい衝動に駆られるのだ。
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