笑わない男

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 顔がいい、さらに医者、ともなれば女どもはハイエナのごとく狙う。当然だと思う、こんな優良物件は珍しい。だが、彼には浮いた話一つない。果敢に挑んだ美女たちも、いつも撃沈して帰宅するとは有名は話だ。  というのも、この先生、本当に無口で愛想がない。  笑ってるところみたとこありますか? と先輩看護師に聞いても、誰も頷かない。まあ、さすがに患者にはどこか優しい笑みを漏らすことはある。患者になりたい、が周りの女たちの口癖だ。だがそれもごくたまにだし、本当に微笑というレベルで、相手を安心させるために何とか口元を緩めているというもの。それ以外は一切ない。  会話は仕事についての業務事項のみ。飲み会などの参加は一切なし。医者で三十と言えば、まだまだ下っ端なので普通上司の飲みに付き合うのだろうが、藍沢先生はお構いなしだ。プライベートな質問をしてみようものなら、『それ答える必要ありますか』と冷たい返事が返ってくるらしい。  独身であることは間違いないようだが、彼女の有無も、というか女に興味があるのかさえ、謎に包まれた人なのである。
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