見てほしいもの

11/42
前へ
/273ページ
次へ
 時間を忘れるほど動きまくり、額にじんわり汗をかきながら動いていた。昼休憩も終え午後に入り、ある患者を他病棟へ送っていた。転棟することとなったのだ。  検査をしていくうちに、思っていた容体と違う、もしくは治療方針が変わるということはよくある。例えば内科的治療をするはずだった患者がオペをすることになるなど。そうなれば、外科病棟へ移動させることになるのだ。  患者を送り、一人また自分の病棟へ戻っていた。エレベーターを使おうと待っていたが、来たそれは中が人でいっぱいだった。見送ったあと、そんなに階数も離れていないので、階段で行くことに決める。  エレベーターがあれば、階段を使う人はそこまで多くない。誰もいない階段をリズムよく上がりつつ、今日もふくらはぎがパンパンになりそうだなあ、とどうでもいいことを考えていた。  するとその時、上から人が降りてくるのに気が付いた。  規則的な、でも静かな足音。視線を上にあげてみると、なんと藍沢先生だった。一人白衣のポケットに手を突っ込んだまま、階段を下りている。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1749人が本棚に入れています
本棚に追加