笑わない男

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 私は、この藍沢先生争奪戦からは外れていた。そりゃかっこいい人は好きだけども、こんなに無口な人、一緒にいるのは大変だと思う。手に負えません。何より、男前だからこそ、無表情がやけに怖い。必要事項で声を掛けるときも、ビビりながら声かけしている状態だ。  ただ、医者としてはかなり有能な人らしく、頭もいいし判断力もあると評判だ。なので、付き合いが悪くとも上の先生からの印象はそんなに悪くないらしい。 (ちゃんと仕事はしてくれるし仕事相手としてはいいんだけど、怖いんだよねえ)  私は目を合わさないようにすれ違った。    本日の仕事は超多忙。緊急入院は多く入ってくるし、元々人手も少ない。昼食すらゆっくり食べれないまま走り回り、気がつけば夜十九時を回っていた。ようやくやるべき仕事が片付き、先輩に挨拶をし荷物を持つと、棒のようになった足を必死に動かしながらエレベーターのボタンを押した。  はあ、と大きなため息をつく。本当に疲れた。明日も日勤かあ、今日は早く寝よう。夕飯は作ってられないな、買って帰るぞ。
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