見てほしいもの

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 彼は不仲の弟が一人いるだけ。もしかしたら、その結婚も弟に反対されたのかも。ほかに託す相手がいなかったのだ。『自分が死んだら相手に渡してほしい』と、誰にも頼れなかった。  そこでよく受け持ち、会話をしていた私と出会った。そこしか、希望はなかった。  じっとその文字を見つめる。心がゆっくり温かさで溢れてくる。  どうしても渡したかったんだ、愛した人に。形見とも呼べる何かなんだろう。憶測だけど、生きてるうちでは断られたらどうしようとか考えちゃって行動に移せなかったのかな。死んだら受け取ってもらえる、って思ってたのかも。  私にも、直接頼めば断られると思ったんだろう。(実際断っただろうし)それでこんなまどろっこしいことを。しかし、ペンの中身なんて気づかなかった可能性の方が高いと思うのだが……。まあ、他に思いつくものもなかったのだろう。もはや半分諦めの賭けだったのかもしれない。  そこまでして、山中さんが渡したかったもの。ここまで来たら、叶えてあげないなんて選択肢はない。
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