1748人が本棚に入れています
本棚に追加
へその緒と、それにしっかり絡ませた数本の黒髪。
『思えば、椎名さんはあの子にちょっと似てるんだよなあ』
『まあ、私はかなり恋愛にのめりこむタイプだったんだが』
『もしかして遊びに行くのかな? 楽しそうに髪を抑えていた。肩に落ちてるよ』
声すら出せなかった。手のひらにあるそれをすぐに投げ捨てたかったのに、体がまるで動かない。
パクパクと口を開け、ただ瞬きもせずにそれを見つめるだけだ。思い出してみれば、彼に髪が付いてるよと払ってもらったのは、あれ一度じゃない。今まで何度も受け持つ中、ゴミが付いてると触れられたことはある。ただの親切心かと思っていた。
私? 私だった? いつの間にか、好意を抱かれていた?
いつも笑顔で私を褒めて、楽しそうに話してくれた。ただ患者と看護師の関係かと思っていたけれど、彼は違ったの?
そしてその気持ちを死んだあと伝えるために、こんなことを……きっと、彼が生まれた時にその臍に繋がっていた管と、……私の髪?
その瞬間、背後からぶわっと冷気を感じた。寒さに包まれ、凍えてしまいそうなほどのそれに、全身が強張った。
最初のコメントを投稿しよう!