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固まって動けなくなった私の背後に、誰かが立っていた。感じる気配と息遣いに、全身の毛穴が開き、脳の奥底で警報が鳴り響く。
生ぬるい手が、私の両肩を掴んだ。生きている人間ではない体温なのは明確だった。振り返ることすら出来ず、手のひらの箱から視線を外せられない。
肩を掴んでいた手が、徐々に私の腕を撫でながら降りてくる。大事そうに、そして愛しそうに撫でるその土気色の腕に、嘔気を感じて頭がくらくらした。
つつつ、と、手が肌の上をすべる。
そっと、木箱ごと私の手を包み込む。
耳に不快な息がかかる。相手が何かを囁いている。聞いてはだめだと、脳がシャットダウンしようとする。それでも、それをこじ開けようとするように、声は私の中に入ってくる。叫びだしたくて逃げ出したくて仕方ないのに、囚われたように体は言うことを聞いてくれなかった。
『今度こそ 一緒にいよう』
耳元にそんな言葉が届く。
ああ、霊と関わってしまったからなのか。
表の顔しか見ず、何も相手を知らないのに信じ、親切心を見せたからなのか。
「はな……して」
私は違う。私の気持ちは違う。
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