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「あー、すみません。せっかくお越しいただいたのにお待たせしてしまって」
編集者としての櫂は休まることがなかった。佐和と琉門をロビーで見送ったあと、大急ぎで次の会議に出席した。といっても、堅苦しいものではなく、出席者は櫂を含めて三人だけだ。
「さてさて、座ってください。滝嶋先生、古庄先輩」
櫂が席を勧めた相手は作家の滝嶋あおと彼の元担当編集の古庄香澄だった。言い換えれば、佐和と琉門に会った二人である。
あおと香澄は櫂に勧められた通り、部屋の椅子に座った。二人は並んで、櫂はその対面に腰を下ろした。
「さっき、琉門たちのことちらっと見たけど、上手くいったみたいだな」
あおが嬉しそうに言った。
「はい! あんなに渋っていたのが嘘みたいにすんなりいきました」
「運が良かっただけ」
「先輩もそう言わないで。運も実力のうちって言うじゃないですか」
何事も計画通りに進んだ櫂はご機嫌だった。
「今回は本当にお二人に頼んで良かったです。どうしても決めたい企画だったので」
櫂はテーブルから身を乗り出して勢い良くあおと香澄の手を取った。ガタンという危なっかしい音もした。あおと香澄も思わず身を引いてしまった。
「やっぱり名コンビですね、お二人は」
櫂は褒めちぎるのが得意である。
「もう解散したんだ。俺には新しい編集の子が付いてくれた」
「その子、大変そうですよね。もともとはファッション雑誌志望だったそうですよ」
「それはこんなむさいおじさんが相手で可哀想だ」
「先生はこう見えてわがままなところもありますからね」
香澄は意地悪に言った。
「俺がいつわがまま言ったんだよ」
「いつもですよ。俺はこれが書きたいんだって」
「それはわがままじゃなくて作家としてだなあ……」
「今もそんな調子だから新しい子が苦労するんですよ」
調子のいいやり取りを櫂は眺めた。やっぱり名コンビだ。
そう思ったら櫂は吹き出した。むっとした表情であおと香澄は振り向いた。
「ごほん。ちょっとお二人に相談が」
櫂は咳ばらいをすると、急に真面目なトーンになった。あおと香澄はころころと変わる彼の態度と表情に圧倒されて動けなかった。
「もう一度コンビ、結成しませんか?」
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