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佐和がリビングに戻ると、琉門はソファに座ったまま、打ち合わせのとき一切口をつけなかったシュークリームをかじっていた。
「先生。新連載、やったらいいじゃないですか。映像化だって美味しい話ですよ」
佐和は櫂が飲み食いしたカップや皿を片付けながら言った。
「分かってるんだけどね」
「それじゃあ……」
琉門はただ黙ってシュークリームにかじりつく。いつもはペラペラと無駄口の多い琉門が何も言わずものを食べるときは決まって機嫌が悪いときである。
「分かってますよ。先生がこの企画書通りの作品を書きたくない理由は」
「じゃあ何も言わないでくれよ」
「でもね……」
佐和は片付けの手を止め、テレビ台に飾られた写真立てを眺めた。そこには新人賞の授賞式やサイン会のときの写真が入れられている。どれも十年ほど前のもので、写っている琉門は若かった。
これに比べたら、今は地味になっちゃったな。佐和はソファに腰かけ、口に付いた生クリームを拭う琉門を見てそう思った。
「とにかく、先生。矢萩さんに早くお返事してあげてくださいね」
そう言うと、佐和はトレーを持ってキッチンに入っていった。
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