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「僕、出掛けてくる」  佐和が洗い物を済ましたころ、琉門はそう言った。 「いきなりですか?」 「夕飯までには帰るから」 「ちょっと!」  佐和は引き留めようとしたが、琉門は答えず、さっと鞄を持ってそのまま出ていってしまった。琉門は不機嫌になると、こうやって多くを言わずに出ていってしまう。  佐和は深めのため息をついた。  もやもやする。矢萩の言う通り、琉門には活躍の場を広げてほしい。小説を書いて生計を立てている以上、もっとファンを獲得しなければならない。多くの人に読まれなければ、たとえ新人賞を獲った作家でもいつか埋もれてしまう。  でも。  佐和はもう一度、ため息をついた。彼女もそんなドライな考えだけを持っているわけではない。 「夕飯……」  そうだ、買い出し行かなきゃ。佐和は琉門のいなくなった部屋で冷蔵庫が空であることを思い出した。それに、わたしも外に出れば、気分転換になるかもしれない。  佐和も支度を済ませ、琉門の家を出た。
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