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佐和が向かったのは駅前の商店街である。佐和と同じように夕飯の買い出しに来た主婦でアーケードの中は賑わっていた。
佐和は並ぶ店を見ながらゆっくりと歩いた。丁度セールの時間で、八百屋やら魚屋やら、四方八方から安いよ安いよの声が聞こえてくる。
せっかくだし、琉門先生の好物にしよう。そんなことを考えながら通路を過ぎていると、突然声を掛けられた。
「佐和?」
突然名前を呼ばれた。それも佐和にとっては聞き覚えのある声だった。すぐに振り返る。
「香澄!」
そこに立っていたのは佐和の大学時代からの友人、古庄香澄だった。白いブラウスにジャケットを羽織り、黒のパンツにパンプスというきりっとした恰好である。仕事帰りのようだ。
「こんなところで会うなんて奇遇ね! 仕事帰り?」
佐和は友との再会に喜んだ。
「そう。たまたま仕事が早く終わったの。そっちは?」
「夕飯の買い出し」
「おー、働くねー」
香澄は褒めた。彼女は佐和が琉門の元で家事手伝いをしていることを知っている。
「買い出しぐらいしか外に出る機会がないの」
佐和は困ったように笑った。
「香澄はお仕事順調?」
佐和は訊いた。
すると、香澄は訊いてほしかったとばかりに目を見開いた。
「そうそう! ちょっと聞いてよ、佐和」
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