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あれから五年。私はとある森にいた。
勇者の真実を知り、半分ぐらいは勇者になれた……はずだ。その結果、王宮にいることはできなくなった。
ドルガランもそうだ。騎士団をやめ、森のなかに家を建てた。ついでに昔からの夢だった鍛冶屋の仕事もしてるらしい。瘴気が薄まっていく影響で年々依頼が減っているそうだ。仮初めでも平和なのはいいことだと笑っていたので、商売人には向いてないんだと思う。
「あと、何年だろうか……」
眼帯越しに右目へ触れ、馳せる。
身分を捨て、過去を捨て、名前も口調も服まで変えた。勇者の代償としては破格だろう、記憶は残ってるんだから。
「はやく、勇者にならなければ」
そうして、彼女を……
「いたーーーーーッ!!!」
声に振り向けば、青年だ。
肩で息するいきり立った青年。
「みんないたぞ! こっちだ! 囲め!」
呼応するようにドタバタと森のあちこちから人が駆けてくる。
「やれやれ。私もずいぶんと人気になったものだ」
「なにが人気だ空き巣野郎! ヘソクリ返せ!」
「うちの家財壊しまくりやがって!」
「こっちは畑を荒らされたよ!」
「ジイサンの墓が掘り起こされてメチャクチャだ!」
「なるほどなるほど。こういうときは確か、“おや、またなにかやってしまったかな”?」
『殺せェェェェェェェ!!!!!』
剣、鍋、鍬、包丁、斧――様々な武器を手に襲いかかってくる村人たち。
私は近くにあった小枝を拾い、
「せい」
『ウワァァァァァァァ!!!!!』
風圧であっけなく吹っ飛ぶ彼らを尻目に、もう一発。
「ほい」
「なんだ!? 急に木が倒れて!?」
「地面に亀裂が!? これもアイツがやったのか!?」
「どうしたそんなに驚いて。“ああ、私の魔法がしょうもないということか”」
『…………』
これでもう追ってこないだろう。くずおれた村人を一瞥し、踵を返す。途中すすり泣く音や恨みごとが聞こえたが、仕方ない。私は勇者なのだから。
「ヤツに教わった勇者仕草も板についてきたな」
その分敵が増えた気がするが、彼はできないことは言わない。この程度の試練を越えられぬようでは勇者失格ということだろう。
「あと、何年だろうか」
猶予がどれだけあるかはわからない。それでももう、見届けるだけで終わらせない。必ず勇者になって迎えに行く。そのためなら、私は……
「…………」
いまはもう、遠く離れてしまった。
城も、心も、ニンゲンからも。
後悔はない。選択肢もない。
「私は、勇者だ」
だから、気に入らないモノを壊す。
仲間のついでに世界を救う。
そして、
「この茶番劇を、終わらせる」
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