第一章

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第一章

 かろうじて人の姿を保っていたが、黒く焼けこげ、固まったその姿は生前の姿が想像出来ないくらい、変わり果てた姿だった。  何でこんな事に‥‥。  痛み。苦しみ。怒り。悔しさ。虚しさ。    色々な感情が一度に去来し、頭がおかしくなりそうだった。 ーーーーーーーーー  そのアパートは、昭和に建てられ、その朽ちかけた姿を月下に晒していた。  周りには家がなく、駅から遠い田舎街には人っ子一人見られない。  もちろん、今は夜中だからという事もあるが、昼間でも人通りは少ない。  更に今は正月休みであるため、帰郷している者が多いせいでもあった。  このアパートは大学の寮で、三階建で1号室から5号室まであり、それぞれ学生が一人暮らしをしていた。  寮とは言っても管理人は滅多に来ないので、学生は勝手気ままな生活をしている。  三階、階段を上がって右手、301号室がマモルの部屋だ。  その部屋の窓から、ランプのような光がゆらゆらと漏れている。  光が漏れているのはその部屋だけ。  深夜のため、部屋の中の声が外までよく聞こえる。  一人は甲高い声で、もう一人は低く響くような低音であった。 「これだけ有れば十分だろ?」  甲高い声の男が箱買いしたビールを見て言った。  川西マモルである。 「足りなきゃコンビニに行けばいい。 ちょっと遠いが自転車で行ける距離だ」  低い声の男が答えた。  窪田サトルである。  同じ大学の同級生だ。  サトルは卓上テーブルいっぱいに皿を並べて、寿司やお菓子を並べた。  1LDKの狭い部屋で、畳オンリーの部屋だ。  大きなテーブルは置けないので、ちょい大き目の卓上テーブル。 「あとは主役の登場を待つだけだな。 ‥‥遅いな、ユウキのやつ。 いつもならこの時間に現れても良いはずだぞ」  マモルはそう言うと、部屋をウロウロした。  ユウキも彼と同じ大学の同級生である。  マモルが思い出したように話し出した。 「知ってるか? 聞いた話なんだけど、ユウキが女と会ってるのを見たヤツが居るんだよ」 「それ、本当か!?あの女か!? この前別れたんじゃなかったのか!?」 「いや。そこまでは分からない。 でも、懲りないヤツだなよな、二股かけられてるの教えてやったばかりなのに」 「まったく‥‥ だからアイツらなんか相手にするなって言ったんだ。 やっぱりユウキには俺たちしかいないんだよ。 また守ってやろうぜ!」 「なあ、 やっぱりあの火事は、あの女が‥‥」  マモルは拳を握りしめた。 「シッ!」  サトルがマモルを制した。 「これはユウキの誕生会。 だから、この話は後日話そう。 ‥‥ユウキが来るぞ!」  急に部屋の中に温度が下り、ひんやりとした空気が床を這いずり回る。  部屋の冷気は焦げ臭い匂いと混じって鼻腔をツンと刺激した。  スーッと音もなく玄関の扉の前に立っている人影があった。 「やあ‥‥」  真っ黒な右手をゆっくり挙げて挨拶をする。  ユウキであった。  生気のないその顔はげっそり頬がこけており、落ち窪んだ目がギョロリとこちらを見ている。  しかし、その目は慈愛に満ちていて、決して彼らを威嚇している訳ではない。  その口元は微笑みで緩んでいた。 「誕生日おめでとう!!」 「誕生日おめでとう!!」  サトルとマモルがクラッカーを鳴らして出迎えた。 「ありがとう。 お前らだけだよ、俺の誕生日を祝ってくれるのは‥‥」  ユウキは口元を緩ませて言う。 「バカ、当たり前じゃん。 俺たち、親友だろ?」  マモルが言う。 「親友‥‥」  ユウキはポロポロと涙を流した。 「そうだ。俺たち死んでも親友だろ?」  マモルが言うと、サトルがシッ!と口元に人差し指を立て、一喝して言う。 「とにかく、明日は休みだから朝まで飲もうぜ!」  飲み会をマモルの部屋でやる事になっていた。  そして12/24はユウキの誕生日。  誕生日会の形になったのはサトルとマモルがサプライズの形でユウキを祝ってやろうという事になったからだ。  今日も誕生会が始まった。
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