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山伏はふらつきながらも立ち上がり、俺を見下ろした。下から見上げる山伏は逞しく、全てを見通すかのような貫禄がある。不思議と安堵して、逆らうのをやめた。朦朧とする中、山伏を虚ろな目で見つめる。
ありがとう、山伏の唇がそう動いた気がした。
「やまぶしっ」
目を覚ますと、扉から冷たい風が漏れていた。急いで羽織を着ると、外へ飛び出した。まだ辺りは薄暗い。一面雪で埋もれてる。暁の僅かな光だけが頼りだった。歯を食いしばり、草履のまま追いかけた。
導かれるように一直線に走った。名前も知らない、少年。南蛮人との間の子。白い肌。栗色の髪。琥珀色の瞳。一夜の記憶が滝のように流れる。
触れたい。もう一度。あの髪に。なぁ山伏、もう一度、俺に微笑みかけてくれないか。
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