0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は唯一の友と呼べる相手に、怒号を飛ばした。
友人は怯むことなく、俺の肩に手を置く。
「喜助、不幸があったから落ち込むのもわかるが、いい加減死んだような顔を直せ」
「不幸? あれはお前にとって不幸か。俺にとっては忌まわしい人間の残酷さでしかない。こうやって米やらを届けてるのは感謝している。だがもう帰れ。今は顔も見たくない」
俺はその場に座り込むと頭を抱え込む。彼は「じゃあ、また今度」と心配そうな声で応えると、足音が段々と遠のいていく。
しばらくすると小さな足音が近付いてきた。獣では無い、二足歩行の足音。どうやら足を擦っているようだ。ゆっくりと気配が近づいてくる。
「おい、帰れとーー」
そう言いかけて、詰まった。そこにいたのは彼ではなかった。白装束に身をまとった、うねるような髪を高く束ねた少女。白装束から出る膝小僧は顔と同じで、人間とは思えない白さをしている。間の子か。そして山伏だろうか。少女は俺をじっと見つめながら、腹の方を苦しそうに押さえていた。
「お百姓さん、どうか……。どうか一時だけ休ませていただけませんか」
女と比べてずっと低く、ようやくその山伏が少年であることに気づく。汗を垂らしながら訴えかける瞳を鋭く光らせていた。
「お、おい大丈夫か」
俺が尋ねたのもつかの間、山伏は倒れた。白装束は泥で汚れる。乾いた地面が、鮮やかな血で染められた。
最初のコメントを投稿しよう!