Isaac

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「あぁ……」  俺は情けないため息のような声を漏らす。足跡がはっきり現れてから、半刻走ったところで白装束の男が倒れていた。白頭巾から出る、凍りついた栗色の髪。震える手で仰向けに起こすと、安らかな顔をしていた。もう息はない。皮膚全体がが青いような紫のような、変わり果てた姿。どこもかしこも冷たかった。爪は黒くなっている。俺は温めるように強く抱きしめると、絶望した。  嗚呼、まだ子どもじゃないか。愚かなことに昨夜は気が付かなかった。  また、救えなかった。    それは目眩がするように燃える、忌々しい炎。こんな気持ちはもう御免だ。あの日、絶望の渦の中、そう決意したはずなのに。  俺は叫んだ。その声は獣の雄叫びに近い。共鳴するように、山の遠くから狼の遠吠えが聞こえてくる。遠吠えは何故か慈愛に満ちた、寂しい声のように聞こえた。  辺りが一気に橙に染まる。太陽は東からやってきて、白銀の雪を溶かす。ずっしりと、魂が抜けたように山伏の体が重くなった。  雪で囲まれた嗚咽は徐々に大きくなって、村を飲み込むようだった。雪を溶かすような涙は、冷たい山伏の頬に落ちる。俺は溶け始めた雪に寝転んだ。歪んだ視界に飛び込んだ澄んだ空を、酷く憎んだ。
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