Isaac

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 木綿の手拭いで止血し、数刻経ったあと、ようやく山伏の顔つきが穏やかになる。少し背中が汗ばんでいるのを感じた矢先、身震いをした。凍った空気が吹き込んでくる。戸締りに取り掛かったが、いつの間にかすっかり暗くなった夜空には大きな雲が広がっている。ぽつり、と細かな雪がゆっくりと落ちてきた。  ふと山伏が背負っていた大きな木箱が目に入る。左右に揺すってみると、何かが動く音がする。三段ある箱の一番下の段を開けると、むせるような匂いが広がった。思わず咳き込むが、嗅いだことがある匂いに首を傾げた。片手に乗るくらいの小さな陶器が幾つも入っている。  二段目には薬草をすり潰すような道具が、一段目は数種類の草が束ねてある  蓋がついた青白い陶器が気になった。一番異臭を放っている。恐る恐る開けてみると、酒の匂いが部屋の中に充満した。思わず手で鼻を覆ってしまう。ごくり、と喉を鳴らす。酒は好きだが、一年は飲んでない。これは粘着性のある南蛮の酒だろうか。  人差し指で舐める。苦い。反射的に吐き出していた。雑草と強い酒の味が口いっぱいに広がる。  立ち上がった瞬間、足がもつれた。床が大きく動く。体全体の感覚は徐々に消えていった。まずい、と山伏の方に目を写すのだが、ついに糸が切れたように意識が途切れた。
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