6人が本棚に入れています
本棚に追加
満天の星が仰げる屋上にはリビングセットが配置され暖が取れるスペースもある。
僕らは対面でソファに腰掛けた。
彼女は一つ息を吐いて静かに語りだした。
それは彼女を彼女足らしめた少し哀しい過去の話だった。
神崎家は吉祥グループ本家の吉祥家の分家でグループのホテル運営を担っている。
このホテルは明治初期に吉祥家当主の本妻が別邸として建てた。
当主が亡くなり代替わりすると本妻の隠居所として使われたが一族が集える宿泊施設に改装した。
その管理人として神崎家が仕えた所からグループのホテル運営を担う今に繋がっている。
吉祥家の意向は絶対で一族の婚姻は本家が決める。
『血族』の結束が薄くなることを阻むためだ。
各家門の女子は16歳になると許嫁が決められる。
婚約は18歳、20歳で正式に婚姻の儀が執り行われる。
「時代錯誤もいい所でしょう?吉祥家が興った飛鳥時代からの仕来り。神崎家は本家に近い血筋だから一族に利をもたらす外戚の奪い合いで当代は女子が私だけだったから私のあずかり知らぬ所で壮絶な争奪戦が繰り広げられていたらしいの。兄の話だとね」
ふ~んと聞きながら僕はハッとした。
「えっ!待って神崎さんって独身じゃなかったんですか?」
僕が知る限り彼女は独身で独り暮らしだ。
「うん、今はは独身。20歳で結婚して22歳で離婚したの」
僕の頭は許容範囲を超えグルグルとこの3年間が駆け巡っていた。
最初のコメントを投稿しよう!