カミングアウト

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ホテルマンが男性客へ睨みをきかせる。 「山神、今は華の兄として話す。仕事で顔を合わせるのは仕方がない。だがホテルのルールを犯してまで華と会おうとするなど私が許さない。5年前に終わった事だろう。これ以上、華に関わるなっ!」 男性客がホテルマンに抱えられる彼女に手を伸ばした。 「触れるなっ!妹に触れるなっ!」 ホテルマンが発した怒声がロビーに響き渡る。 執事が静かに頭を下げた。 「山神様、どうか、この場はお引き取り下さい。ここは『女王の庭園』、山神家家門のお立場もございましょう。このこと吉祥本家に伝われば家門に禍が降りかかります。神崎は今日のこと胸に収め口外致しません。どうか」 執事の言葉にハッとした表情を見せた男性客は彼女に伸ばした手を収めた。 「神崎すまなかった。私は華ともう一度、話がしたいだけなんだ。華、いや神崎華さん、すまなかった」 哀しそうな目を彼女に向けた男性客は執事に連れられロビーから去っていった。 ホテルマンは彼女を抱きかかえたままフロントの先にある回廊へ向かった。 呆然と立ちつくす僕へ振り向きざまに微笑みを向ける。 「佐藤様、お見苦しい所をお見せし申し訳ございません。私は当ホテルの支配人、神崎(かんざき)颯志(そうし)と申します。華の実兄です。このままお部屋へご案内致します無礼をお許し下さい」 「支配人が兄上?えっ、えっ」 戸惑う僕に支配人はおやっ?という顔をした。 「華、佐藤様にまだ話していないのか?」 「今夜、話そうと思ってた」 彼女はポツリと支配人に告げる。 「そうか。山神のこと今回のプロジェクトの事もすまない。父さんを止められなかった」 「いいのよ。私が弱いから、兄さんに迷惑かけてごめんなさい」 支配人の胸に顔をうずめ小さな声で呼応した彼女の肩は小刻みに震えていた。
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