ふたつの好き

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ふたつの好き

帰ってから菜々にLINEを送ってみた。 『相談があるんだけどいい?』 『どうしたのー?まさか大輝くんに関すること?』 ギクッ 見透かされてる……。 『あのさー、大輝にキスされそうになったんだけど わたし心の準備が出来なくて 拒否しちゃったんだよね』 『え?マジ??』 『それで気まずくなっちゃって帰っちゃったの。でもなんかそのときのことを考えるとドキドキしちゃって。』 既読がついたけど返事がなかなか来ない。 『陽葵、自分の気持ちに気づいて?』 それだけ送られてきた。 『どういうこと?』 そう返すけど返事は来なかった。 菜々、どうしたんだろう。 それに、『自分の気持ちに気づいて』って? 考えてみる。 大輝にキスされそうになったときドキドキした。 大輝と放課後デートしたときも カッコいいなって思った。 思い出していると胸がキュッとなって温かい気持ちになる。 !! もしかして、わたしは大輝のことが好きなのかもしれない。 そう自覚すると同時に頬に熱が集まる。 そしてあることに気づく。 菜々は大輝のことが好きなのではないか。 あぁ、なんて馬鹿なことしたんだろう。 親友が好きな人を奪って、大輝のことを相談したりして。 自分が嫌になる。 でも、まだ分からない。 大輝のことを好きなのかどうか明日聞いてみよう。 翌日 菜々は元気が無かった。 わたしが話しかけても、「うん」とか「そうだね」 しか言わない。 わたしのせいなのは明白だった。 胸がギュッと締め付けられた。 「菜々、ごめんね。 菜々は大輝のことが好きなんでしょ?」 思い切って言うと菜々はピタリと動きを止めた。 「何言ってんの。私が大輝くんのこと好きなわけないでしょ」と笑った。 だけど分かってしまう。 その瞳が潤んでいることも。 作り笑顔なことも。 「わたしに気を遣わなくていい。ごめん菜々。菜々は大輝のことが好きなのに、わたしは!!」 「好きじゃないって言ってるじゃん!!」 菜々が大声を上げた。 その途端クラスが静かになり、何があったのかとヒソヒソ話す声が聞こえてきた。 大輝も、驚いたようにこちらを見ている。 「菜々……?」 菜々の瞳から一筋涙が流れた。 「あ、ごめんごめん、なんでもないの」 菜々が取り繕うように笑い「トイレ行ってくるね」 と駆け出した。 「菜々!!」 菜々は振り返らなかった。
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