亜希との時間は生産性がない

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私が配属されたのはクリエイティブ部でも、マーケティング部でも、営業部でもなく、媒体部だった。 営業と広告枠を持つ媒体社の間に入って、広告を流す媒体を確保する部署だ。営業からは広告枠の値段をもっと安くしろとパワハラ混じりにののしられ、媒体社からは逆にもっと高く出来ないことをこれだから女はと馬鹿にされ、コウモリみたいにどっちつかずで、どっちからも邪険に扱われた。と言うかボロクソに言われた。起業すると息巻いていた同期は総務に配属されて、社内の連絡ツールで勤怠や経理についてのお知らせをこまめに流していた。 彼女の作った書類処理ミス防止を啓蒙するポスターは、「現場を知らない奴が何言ってんだよ」と営業部から文句を言われたらしい。 「そういうミスを何とかするのが、総務やら経理の仕事じゃん」とも言われたそうだ。 誰からも必要とされてない。 誰からも頼りにされてない。 花形部署からは明らかに見下される。 でも業務量だけは一丁前に死ぬほど多くて、ただ心だけが摩耗していった。 休みの日に単館ものの映画にいくことも、自己啓発書を読むことも、自分でコピーをかいちゃったりすることもなくなった。ネットフリックスで何度も見たワンピースをつけっぱなしにして、ひたすらスマホでインストールしたテトリスもどきをしていた。 営業部や、クリエイティブ部に配属された同期の話を聞くのがうんざりで、劣等感に押しつぶされそうだった。 「俺は忙しくてきついけど楽しいよ」とか、「でもやりがいがある」とか、「お前は今のままでいいの」とか安全圏から一方的に説教臭く話されるのが、嫌で嫌で仕方なかった。 ここでは、仕事の進め方とか、どんな風に働いているかが、ほとんどイコールでどう生きているかということだった。 私はきちんと生きていないみたいで、息が苦しかった。 あっという間にほとんど一年がたって、あれから一度も実家に帰っていないことをふと思い出した。 ゴールデンウィークに入る前日、私は退職代行を使って仕事を辞めた。 上司はもちろん、先輩も同期も全員ブロックした。 意外とすんなり辞められたことに拍子抜けして、逃げるように実家に帰った。
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