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「あいつが帰って来ても、とやかく言うのはやめよう。いろいろと思うことがあったんだろ。俺たちが考える以上に」
夫は食後のお茶を一口飲んで言いました。
「ただ、あいつの考えてること、想いは聞きたい。それで医者を目指さないと言うなら、俺はそれでもいいと思ってる」
正直、驚きました。普段はあまり喋らない夫が自分の胸の内を話してくれたこともそうですが、医者に成らずとも良いということに。
私はとりあえず頷き、夕食の後片付けをするため、席を立ちました。
夫は昔の自分と今の拓実を照らし合わせていたのかもしれません。と同時に、拓実の気持ちが痛いほど分かるのでしょう。
将来を自分で決められないもどかしさ。
決められたレールの上だけを進まなければならない理不尽さ。
私は食器を洗いながらも、全く別のことを考えながら、無意識に手だけを動かしていました。
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