親友

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親友

目を覚ました親友は私のことを覚えていなかった。 17年間生きてきて、初めて親友と呼べる友達ができた。だから私はとても幸せだった。 茜とは高校は別々だけど、同じ予備校に通っている。図書館のような大きな書店で参考書を見ている時に、私達は初めて言葉を交わした。 茜と私はまったく違うタイプの人間だった。 茜はクラスの中で誰からも好かれるような女の子だ。真面目で思いやりがあって優くて、笑顔を見ていると誰もが幸せになる。一方私は、教室の隅でひとりでポツンと座っているタイプ。虐められていたり仲間外れにされているわけではないけど、どことなく自分がクラスの中で浮いているのはわかっている。 高校は好きじゃない。茜と出会ってその気持ちはますます強くなった。できることなら茜と同じ学校に編入したいくらいだけど、私立のエスカレーター式のお嬢様校に行く余裕はうちにはない。いまや茜の日本史の先生や数学の先生の名前だって言えるというのに。人生は厳しい。 本当に、茜みたいに素敵な女の子は他にいない。音楽や本の好みも似ていて、休日も一緒に過ごすことが多かった。茜といると楽しかった。ただそれだけでよかった。 だけど、茜が駅の階段から落ちて頭を打ち、世界は変わってしまった。あの日はゲリラ豪雨で、階段が濡れて滑りやすくなっていたらしい。 幸い命に別状はない。ただ、目覚めた茜には、高等部に入ってからの記憶がなかった。当然私のことは何一つ覚えていない。出会いも、一緒に過ごした日々も。 「小夜の貸してくれた小説、すごく良かった。読み返したいから、もう少し貸してね」 あの日、茜はそう言って、雨の中、私と別れた。 嬉しい気持ちで帰宅して、その日もメッセージに返信がないのは本を読んでいるからだろうと思っていた。まさか病院に運ばれているなんて思いもしなかった。
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