第四章 新たな一歩

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*  そこから先の数か月はもう、怒涛の勢いで過ぎ去っていった。  警察からの聴取、弁護士への相談、裁判所への申し立てと、ガチガチに緊張した口頭弁論。  目の回るような忙しさを経て、接見禁止命令……卓弥が私に近づくことを法的に禁止する命令が出された時、私はもう安心のあまりへなへなとその場に座り込んでしまった。  もちろんこれはまだまだ序の口。私はこれから卓弥に対し、離婚を認めさせるという大仕事を成し遂げなければならない。  当然だけど口頭弁論の日、卓弥が裁判所に現れることはなかった。押印して送り付けた離婚届は未だそのまま、少なくとも今の時点では、彼に離婚の意思はないようだ。 「大変なのはこれからですね」  裁判所からの通知を読みながら、諏訪邉さんは眉根を険しく寄せている。 「相手がこのまま応じないようでは、離婚調停、さらには離婚裁判になるかもしれません。あちらの出方にもよりますが、離婚まで年単位の時間がかかる可能性もあります」 「あの人のことですから、ただ私の言いなりになるのが嫌で離婚を渋っているのかもしれません。本当はきちんと説得して、離婚届を出せればよかったんですが……」  私がどれだけ言葉を尽くしても、思いが卓弥に届くことはないだろう。諏訪邉さんには申し訳ないけど、最初から私には争いの道しか残されていなかったように思う。 「どれだけ時間がかかったとしても、絶対に離婚するつもりです」  力強く言い切る私に、諏訪邉さんは何も言わず、ただ少し微笑んだだけだった。  ふいにインターホンの音が響き、スカイくんが顔を上げた。私と諏訪邉さんは時計を見上げ、どちらともなくうなずきあう。  約束の時間だ。今日はこの諏訪邉さんのお宅で、私たちは大事な契約の変更手続きを予定している。  今インターホンを鳴らしたのは、きっとその担当の方だろう。諏訪邉さんは立ち上がり、玄関の鍵を開錠するボタンを押してから、 「……ん?」  と、モニターを見て眉を軽く持ち上げた。  ほどなくして、二人分の足音がドカドカとリビングへ近づいてきた。立ち上がって姿勢を正す私と、怪訝そうな顔をしながら隣に並ぶ諏訪邉さん。  ドアの向こうに人影が現れ、元気なノックの音が響く。どうぞ、と言う前に開いた扉から、 「どうもー、ハウスキーパーシーナでーっす」  アイドルみたいにかっこいいけどちょっと軽そうな茶髪の男性が、まるで友達の家にでも遊びに来たような調子で姿を現した。
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