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月の彩
「わたしは いっしょに いられない」
太陽はいつだって誰よりも明るくて、眩しいです。
月はそんな太陽の隣で、小さなときからずっと一緒でした。太陽は月の誇りで、宝物でした。
その声が、光が、私を照らしてくれたから、私は綺麗になれたんだ。
輝けるようになった自分のことが、月は大好きになりました。
太陽の笑顔を体中に受けて、月の白い肌は優しい霞にくるまれたように淡く照らされ、その微笑みはしずかな冬の風に乗って、星々を導きました。月の声は高く、宝石の欠片を鳴らすように澄んだ輝きをそそぎます。
月は夜になると、小さな声で歌を口ずさみました。星がまたたいて、手を叩いて、地球に立つ人間も愛しむようにそのうたに耳を澄ませます。
月は太陽の隣で、ずっと幸せに過ごしてきました。自分の居場所は確かに在ると信じてきました。
でも、そんな月には、太陽は眩しすぎたのです。
いつも一緒に居た二人だけど、当たり前のように太陽の存在は大きくて、皆太陽に救われていました。
闇を打ち消すその強さに、温もりに。
皆優しい太陽が大好きでした。
反対に、月は皆、冷たい香りがすると言っては遠ざけてしまいます。星もしだいに、月から離れていきました。人間たちも、月よりもっと近くで照らす賑やかなネオンや電灯に頼るようになりました。
いつしか、月はいらなくなったようでした。
月は、太陽が大好きでした。
太陽と、ずっと一緒にいたいと思っていました。
今までもこれからも、自分はきっとその隣に居られると信じていました。
でも月は、それじゃだめだと思いました。
私は太陽の隣に居られない、と。皆に好かれ慕われ愛される、あの何光年も遠い太陽の隣には、月のわずかな儚い美しさはあまりに暗すぎたのです。
ずっと満ちてはいられない体が、あまりに小さすぎたのです。
「わたしは あなたから はなれてくらそうとおもいます」
一番のしんゆうで こいびとで かぞくで 大切な大切な太陽は、月と別れて過ごすことになりました。
地球をはさんで、月は太陽から逃げるように遠く離れてしまいました。
毎晩太陽が届ける光で煌めくたびに、月はどうしようもなく切なくて、心に迫る想いがして、ふと思い出したように顔をくしゃくしゃにしては透きとおったさざめく涙をしゃらんしゃらんと落としました。
これでいいのです、これでいいのです、私なんかじゃだめなのです。
これでいいのです、これでよかったのです、私なんかじゃだめだから。
月は涙が止まらない銀色の綺麗な瞳をこすり、凛と前を向いて地球の周りを巡りました。
廻るめぐる。宇宙をめぐってそらを歩く。
あなたと、はなれる。
「だいじょうぶです、わたしはしあわせです
きょうもげんきにやっています」
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