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切り立った岩肌にへばりつくようにかけられた古い梯子は、吹き抜ける横風に頼りなく揺れる。
十六歳の娘の仕事としては過酷だが、これが竜飼いのニナの日課だった。
梯子を登りきった先には、平坦な岩場がある。ここまで来れば、横風はほてった体をさます心地よい味方に変わる。
ニナは背負ってきた荷を下ろし、奥の岩穴をのぞきこんだ。
「うん、ちゃんと眠れてるみたい」
岩穴に撒かれた花びらを掃き集め、運んできた新たな花びらを撒くころには、頭布を巻いたニナの額から頬へと汗がつたう。
ニナは空を振り仰ぐ。
どこまでも澄みわたる青空には、翼を広げた竜の姿がある。
陽光を受けてほとんど黄金色に見える竜に、ニナは藍色の両眼を細めた。
竜飼いは、竜を育てて竜騎士に納めることを生業とする。
だが二年前に卵から孵った幼体竜は線が細く、しかも神経質で食欲も乏しかった。これでは竜騎士の騎乗には耐えられないとして、ニナの父と兄は廃棄を決めた。
――だったらわたしに育てさせて!
ニナは父と兄に頼みこんだ。
竜飼いは男の仕事で、ニナも父と兄の手伝い以上は経験がない。
自分でも無茶だと思った。だが、かぼそく鳴く幼体竜はあまりにはかなくて、見捨てることはどうしてもできなかった。
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