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敏感なシャルが上目づかいになったので、ニナは無理やり血の味がするそれを呑みこんだ。
「いい子、いい子だね、シャル――」
背後にぎこちない足音と杖の音がした。
「――大丈夫か?」
アレクの声がした。その声は明るいとは言えないが、もうよどんではいなかった。
ニナは肩越しにふりむいた。
「シャルを……お願いできますか?」
アレクは硬い表情でうなずき、シャルにむかって手を振り、自分の傍らを示した。
従うようにという合図だった。
シャルは名残惜しげにニナに頭をすりつけると、アレクの横に座った。
「……さよなら、シャル。元気でね」
シャルからのお別れのあいさつを聞きながら、ニナは空の幌馬車を駆った。
あとからあとからあふれ出る涙を風に吹き飛ばしてもらおうとするかのように、家へと急いだ。
§ § §
シャルがいなくなり、竜飼いの手伝いからも遠ざけられて、ニナの体調は落ちついてきた。
「そのうちどこかに働き口を見つけなきゃいかんな。このまま竜飼いの家にいたら、治るものも治らん」
ニナを気づかっていろいろ考えはじめてくれた父に、ニナはおとなしく微笑んだ。
「わたしはどこでも。父さんに任せるわ。仕事が決まるまで、家事は任せて」
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