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おとなしい娘と思われていたニナの意外な頼みは、まず驚かれ、次に笑われ、そして心配され、最後に止められた。
それでもニナの決心は変わらなかった。
岩穴に毛布を持ってもぐりこみ、弱々しく震える幼体竜を抱きしめて幾夜も明かした。
そして二年、シャルと名づけた幼体竜も成体になろうとしている。
「シャル!」
口もとに両手をあてて呼ぶと、竜ははっと頭をめぐらせ、一直線に岩場に降りてきた。
竜の翼が起こした別の風に笑いながら、ニナは竜のごつごつした頭をかいてやった。
「いい子いい子。シャルは今日も元気ね」
ニナの二倍はあろうかという巨体に育っても、シャルの仕草は二年前と変わらない。
頭をかいてもらって、気持ちよさそうに目を細める。
ニナはゆっくり座った。シャルもそのまま膝の上に頭を載せ、寝そべった。
「……ずうっと、こうしていられたらなあ」
竜の寝床があるいくつかの岩山と、そのあいだの草原、青い空と吹き抜ける風。
二年間見てきた景色を眺めながら、ニナはつぶやいた。
「ニナ!」
いきなり父の鋭い声がして、ニナはびくっと肩をすくめた。
梯子を登ってきた父が、苦虫を噛みつぶしたような顔でニナの前に来た。
「ここには来ちゃいかんと言っただろう!」
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