竜飼いの娘

3/15
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「ご、ごめんなさい……でも、もう少ししたら、シャルは竜騎士さまに引き取られちゃうから」  シャルを竜騎士向けの競り市に登録しようとしていたふた月前、若い竜騎士が父を訪ねてきた。  名門の竜騎士団入団をひかえる彼は、自分の竜を探していた。もともとはほかの竜飼いを訪ねる予定だったが、空を飛んでいたシャルを偶然見かけたのだという。  ――ぜひ、あの竜を私の竜として王都竜騎士団に入りたい。  ニナが育てた竜とはいえ、シャルは正式には父の竜だった。ニナに発言権はない。  心配になったニナは、こっそり寝室を抜け出して竜騎士をのぞき見た。  砂色の髪をさっぱりと切って、見るからに育ちのいい竜騎士は、日焼けした顔で微笑んで父に礼を述べていた。  その誠実な雰囲気に、ニナはほっとした。 (あの人なら、きっと大丈夫)  ニナが思ったとおり、シャルとの顔合わせも無事にすんだ。  サムイル家のアレクというその竜騎士は、ニナの父と正式に契約をかわし、シャルの譲渡日を決めて帰っていった。 「だから、最後にシャルとちゃんとお別れしておきたくて……」  名残惜しくシャルの頭をなでてから、ニナはのろのろと立ちあがり、シャルから離れた。  父はますます苦い顔になった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!