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「ご、ごめんなさい……でも、もう少ししたら、シャルは竜騎士さまに引き取られちゃうから」
シャルを竜騎士向けの競り市に登録しようとしていたふた月前、若い竜騎士が父を訪ねてきた。
名門の竜騎士団入団をひかえる彼は、自分の竜を探していた。もともとはほかの竜飼いを訪ねる予定だったが、空を飛んでいたシャルを偶然見かけたのだという。
――ぜひ、あの竜を私の竜として王都竜騎士団に入りたい。
ニナが育てた竜とはいえ、シャルは正式には父の竜だった。ニナに発言権はない。
心配になったニナは、こっそり寝室を抜け出して竜騎士をのぞき見た。
砂色の髪をさっぱりと切って、見るからに育ちのいい竜騎士は、日焼けした顔で微笑んで父に礼を述べていた。
その誠実な雰囲気に、ニナはほっとした。
(あの人なら、きっと大丈夫)
ニナが思ったとおり、シャルとの顔合わせも無事にすんだ。
サムイル家のアレクというその竜騎士は、ニナの父と正式に契約をかわし、シャルの譲渡日を決めて帰っていった。
「だから、最後にシャルとちゃんとお別れしておきたくて……」
名残惜しくシャルの頭をなでてから、ニナはのろのろと立ちあがり、シャルから離れた。
父はますます苦い顔になった。
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