竜飼いの娘

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 見るからに豊かな土地だった。手入れされた農地が広がり、ゆったりと流れる川面は大小の船が行き交い、街道はよく整備されて旅人の姿も多い。    ――お偉い竜騎士家のなかでも、サムイル家は特に偉いんだ。先祖代々、王都竜騎士団に入る家系なんだとさ。  御者台のニナは兄の言葉を思い出した。  ひとりでこんな遠くまで来たことはない。  見慣れない景色に心細さが増して、決心がぐらりと揺らぐ。 (どうしよう、やっぱり帰ったほうが――)  そのとき、幌馬車のなかからシャルの声が聞こえた。  ニナはきゅっと唇をひきむすび、背後に目をやった。 「そうだね、ごめん、シャル。あなたが一緒だった」  ニナはふたたび行く手に目を向け、手綱を握り直した。  サムイル家の館もすぐにわかった。  ニナは、館の使用人に案内を請うた。 「若さまに、お約束の竜をお届けにまいりました」  不審げにニナを迎えた使用人は、さっと顔をこわばらせた。  心細さがはっきりと不安へと変わったが、ニナは幌馬車のなかで素直に待っているシャルを懸命に思い浮かべた。 「若さまがお会いしてくださるまで、何日でも待たせていただきます」  ぎゅっと握りしめたこぶしをかすかに震わせながらも、ニナはきっぱりと言い切った。
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