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実際そのとおりにする覚悟だということは、使用人にも伝わったらしい。
しぶしぶながら一度下がった使用人がまた現れて、ニナは館に入ることを許された。
(……何、この部屋……?)
案内されたのは、物置かと疑うほど薄暗い部屋だった。
窓は閉ざされ、灯りは壁際の燭台で頼りなく揺れるろうそくひとつ。
しかし薄闇に目が慣れてみれば、ちゃんと家具がそろった客間だった。
そして、長椅子になげやりに座った青年がいた。
「え」
ニナはおもわず驚きの声をもらした。
たかがふた月前にのぞき見た若い竜騎士と、容貌はそっくり同じだが雰囲気はまったくの別人だった。
伸びた砂色の髪は櫛もとおしておらず、顔つきはよどんでいる。
あのときニナを安心させてくれた誠実さは、いまはかけらも感じられない。
「あの竜飼いの娘か」
声も、二か月前とは違う。
快活にシャルに呼びかけ、シャルに合わせてくれた余裕と優しさがすっかり消えている。
「悪いことをしたとは思っている。契約の報酬は払う」
ニナは、なんとか自分を驚きから立ち直らせた。
まだ震えてしまう声で、それでも懸命に訴える。
「報酬の問題ではありません。お約束どおり、どうかシャルをあなたの竜にしてください」
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