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シャルは大きな両眼でアレクを見つめたあと、ゆっくりとその足もとに頭を垂れて角を差しのべた。
相手を主人と認めた竜の仕草だった。
返礼として角に触れたときの心からうれしそうなアレクの笑顔に、物陰から見ていたニナも自然と笑みを誘われていた。
「ですから、どうか――」
「――黙れ」
アレクは平坦な声で命じると同時に、立ちあがった。
固定された脚をかばいながら杖をついて壁際にむかった彼の姿に、ニナははっとした。
窓が開けられ、一斉に光がさしこんだ。
反射的に手をあげて目を細めたニナに、影と化した青年から重い声がぶつけられる。
「騎乗訓練中に落ちた。脚の骨折はまだいい、いずれ治る。だが――視力はもとには戻らない」
ニナはアレクを見た。
そして初めて、彼の右目を無慈悲に覆う眼帯に気づいた。
「で、でも、竜には乗れるはずです! それにシャルはとても賢い竜です、あなたの右目が不自由なら、その分をきっとかばってくれます」
「そんな者は王都竜騎士団には入れない。サムイル家にとっての竜騎士とは、王都竜騎士団に所属する竜騎士のことだ。それ以外は竜騎士ではなく、ただの竜乗りだ」
アレクはせせら笑った。その声はひねくれて濁って、ニナは耳を覆いたくなった。
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