竜飼いの娘

9/15

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 シャルは大きな両眼でアレクを見つめたあと、ゆっくりとその足もとに頭を垂れて角を差しのべた。  相手を主人と認めた竜の仕草だった。  返礼として角に触れたときの心からうれしそうなアレクの笑顔に、物陰から見ていたニナも自然と笑みを誘われていた。 「ですから、どうか――」 「――黙れ」  アレクは平坦な声で命じると同時に、立ちあがった。  固定された脚をかばいながら杖をついて壁際にむかった彼の姿に、ニナははっとした。  窓が開けられ、一斉に光がさしこんだ。  反射的に手をあげて目を細めたニナに、影と化した青年から重い声がぶつけられる。 「騎乗訓練中に落ちた。脚の骨折はまだいい、いずれ治る。だが――視力はもとには戻らない」  ニナはアレクを見た。  そして初めて、彼の右目を無慈悲に覆う眼帯に気づいた。 「で、でも、竜には乗れるはずです! それにシャルはとても賢い竜です、あなたの右目が不自由なら、その分をきっとかばってくれます」 「そんな者は王都竜騎士団には入れない。サムイル家にとっての竜騎士とは、王都竜騎士団に所属する竜騎士のことだ。それ以外は竜騎士ではなく、ただの竜乗りだ」  アレクはせせら笑った。その声はひねくれて濁って、ニナは耳を覆いたくなった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加