あなたなら

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… ………。 まだ…寝てる、よね? というか、何その幸せそうな寝顔。 …もう。 秋も終わるんだから 毛布かけないと風邪ひくよ。 … ほんと 無神経通り越して、呆れたりも出来ないわ。 私が いなくなるってゆうのに… さ。 思い返せば あなたと初めて出会ったのも こんな感じだったっけ。 大学のバルコニーにあるベンチで あなたは日向ぼっこなんて笑ってたけど 明らかに、初春の肌寒い中で寝るなんて。 あなたがいなかったら… ううん 違う。 あなたがいてくれたから 私は… あの時、なけなしでかけてあげたコートを わざわざ家まで届けに来るなんて。 しかも 色んな人に聞いて回って 家まで探すなんて。 見ず知らずの私にだよ? まったく… お人好しというかなんというか。 でも… そんなとこが 好きだったんだけどね。 それから 色々なことがあったね。 本当に 色々なことが。 友達のいない私に あなたは色々な人を紹介してくれた。 あんなに人に囲まれたのは 私の人生で初めてのことだった。 慣れない飲み会 一向にうまくならなかったボーリング 趣味の合う同性の友達が出来たカラオケ 男女グループでの旅行なんて アニメやドラマの世界の話だけだと思っていた。 まさに THE 大学生 THE リア充 少し前には思いもよらなかった光景が 目の前に広がっているなんて。 あの時は本当に楽しかった。 今思い出しても あなたには心から感謝してる。 ずっと忘れないと思うし これからも 私の大切な宝物。 ありがとう。 それから あなたと二人 いろんなところに出かけたね。 あなたの運転する助手席で あなたの横顔を見ながら あなたの他愛もない話を聞く。 話し下手な私は あなたの話に相槌しか打てない。 上手いリアクションだって出来ない。 それでも あなたは微笑んでくれた。 絶えず 私を連れ出してくれた。 テーマパークもイルミネーションも ウィンドウショッピングや温泉旅行だって。 あなたは私の手を引いて 暗い場所にいた私に 明るい世界を見せてくれた。 そんなあなたを 私なんかが好きになるのに そう時間はかからなかった。 温泉旅館で浴衣を羽織るあなた。 湯上がりのせいもあったかもしれない。 それでも 白く透き通るような肌に くすんだ金髪を濡らしたあなたは 他の誰よりもかっこよかった。 あなたは、私の初めてを容易く奪っていった。 慣れた手つきで私が曝け出される。 暗闇の中 小さく揺れるオレンジの灯りだけが 彼の荒々しい顔を映し出す。 私はあなたにしがみつく。 あなたは私の背中に手を回す。 大丈夫だから。 その瞬間 私の恐怖心は快楽へと変わっていった。 単純なのかもしれない。 それとも 雑にされる方が好きな 生粋のマゾヒストなのかもしれない。 でも良かった。 その相手があなたなら。 あなたが 求めているのが私なら。 私はあなたの耳元で囁く。 大丈夫だから。 解き放たれるあなたの遺伝子たち。 それを必死に受け止める私。 一つ、残らず。 その後もずっと あなたにされるがまま 私の長い夜は続いた。 その日から、あなたの連絡頻度は減っていった。 でも良かった。 毎日じゃなくても 最後にあなたが求めるのは 私だったから。 あなたの家に向かい 他愛もない会話から 時にはご飯を食べてから あなたは私を求めた。 私から求めることもあった。 私があなたを受け止める度 あなたは私の頭を撫でてくれた。 あなたの腕の中で あなたの心臓の音を聞きながら 今みたいな無防備な寝顔を見せてくれた。 幸せ。 こんなあなたの姿を 知っているのは私だけ。 そう 私だけなのだから。 ついに出来た。 あなたと私の 愛の結晶。 いつもあなたを受け入れてきた 私の思いが通じたんだと思った。 もっと 幸せ。 これで さらにあなたが 私を見てくれる。 私に微笑んでくれる。 私に 私に … え どうして? 嬉しいよね? 嬉しいでしょ? 幸せだよね? 幸せなんだよね? これで私 あなたの隣にずっといられるんだよ。 ねぇ どこへ行くの? 病院? もう 気が早いなあ。 まだエコーしても何も見えないよ。 … ……… 何、言ってるの? 私 あなたの 彼女だよね? 彼女なんだよね? 彼女だからやったんだよ? 彼女だから受け入れたんだよ? 彼女だから 彼女だからっ!! どこへ行くの 待って 待ってよ。 これからの話が まだ沢山あるんだから。 お互いの両親に挨拶して 私がここに引っ越す準備もしなきゃね。 …え 大学? そんなの大丈夫だよ。 私は大学を中退することになっちゃうけど あなたはちゃんと卒業してから この子のために 働いてくれればそれで。 それより 名前は何にしようね。 男の子かなあ女の子かなあ。 … だから さっきから何言ってるの? お金出すからって この子は 2人で望んだから出来たんだよ? そうでしょ? そうだよね? … ……… 私 彼女じゃ ない …? 嘘でしょ? 嘘でしょ? 嘘でしょ? 嘘でしょ?嘘でしょ?嘘でしょ?嘘でしょ?嘘でしょ?嘘でしょ?嘘でしょ?嘘でしょ?嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘 … ……… 。 あら もうこんな時間。 そろそろ朝になっちゃう。 あなたが言ってた嘘の彼女さん? あの人には私から説明しておいたわ。 最初は、妙に甲高い声で否定してたけど ちゃんと最後は静かになってくれて。 ほんと 理解のある方で良かった。 でもごめんなさい。 その時揉み合いになったせいで 私が持ってきたナイフで刺されちゃって 私たちの子がダメになっちゃったみたい。 2人で楽しみにしてたあの子が 2人で大事に育んだあの子が … そのお詫びじゃないけどね。 一足先に私 あの子に会いに行ってくるね。 大丈夫。 枕元に あの子とお揃いのナイフを置いておくから。 私には、愛するあなたを手にかけるなんて出来ない。 けど、あなたならきっと 愛する私たちに会いにきてくれるはず。 だって、私たちは家族なんですもの。 だからお詫びの気持ちを込めた手紙も 一緒に置いていきます。 本当にごめんなさい。 ちょっと部屋を汚しちゃうけど これもあなたとあの子のため。 あなたとの思い出の場所で 愛するあなたの隣で 償わせてください。 … 今日はいい天気になりそうね。 絶好の家族日和。 それじゃあ 数時間後に皆で会いましょう。 そしたらまたあなたを 受け入れてあげるから。
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