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みどりがたくさんの涙を流したその日、ハンカチは、みどりのもとを離れようときめました。
ハンカチは、みどりのおばあちゃんがみどりのために縫ってくれた、特製のハンカチです。コットンでできた緑色の体は、いつからか色あせていました。表面に刺繍された『みどり』という名前は、ほつれかけています。
長い時間、ハンカチはみどりと一緒でした。いつだって彼女によりそい、役にたつことが、ハンカチにとって当然のことだったのです。
ハンカチの役割はいろいろです。手洗い後の手のひらをぬぐったり、雨にふられた髪をふいたり、転んでできた傷口をきれいにたもったりと、毎日が大忙しです。
ハンカチは、そうやってみどりの役に立てることを、とても誇らしく思っていました。みどりのことを、ほんとうに大好きだったのです。
みどりは優しい女の子でした。それは、ハンカチにたいしても同じでした。学校から家に帰ると、いちばんにハンカチを手洗いして、しわを伸ばし、洗濯バサミで干してくれます。そして次の日も、ハンカチをきれいにたたんで、ポケットにしまいます。みどりが持っているハンカチは、どうやら一枚だけのようでした。
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