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その日、みどりは涙を流しました。大きなかなしみから生まれた涙でした。大好きなおばあちゃんが、この世をさったのです。
みどりのハンカチを縫ってくれた、おばあちゃん。もう二度とおばあちゃんとお話できないことをしったみどりは、たくさんの涙を流しました。
ハンカチは一生懸命にその涙をぬぐいました。ぬぐってもぬぐっても、みどりの涙は終わりませんでした。やがて、みどりが泣きやまないまま、ハンカチはポケットにしまわれました。
ハンカチには、体にしみついた涙の意味をしる力がありました。
これまでも、みどりの涙をぬぐったことは何度かありました。だけど、その日の涙はいままでとはぜんぜん違う涙でした。そのかなしみの大きさをしりながら、ハンカチはみどりになにもしてあげることができませんでした。
このままじゃいけない、とハンカチはさとりました。彼女が涙を流すたびに、かなしみを分かちあうことしかできないなんて、そんなのいやだ。みどりの涙を終わらせる方法を、ハンカチはしりたかったのです。
ふと、他のハンカチは、どうやって持ち主の悲しみを受け止めているのだろう、と考えました。
ハンカチは決心しました。みどりのもとを離れ、他のハンカチたちに話をきこう。そして、もっと立派なハンカチになって、みどりの涙を終わらせるのです。
冬が近い、秋の夕方でした。ベランダの物干し竿にぶらさがっていたハンカチは、風を待ちました。やがて吹き付けた木枯らしに身をまかせ、洗濯ばさみをふりきります。そして、茜色の町の中へ、ひらりと飛びたちました。
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