サヨナラ満塁ホームラン

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 数年後、私と息子はテーブル越しに対面していた。息子はあの頃には無かった、知性を帯びた鋭い眼光で、手札のカードと私とを見つめていた。私はというと、息子の成長を感じ震えそうになる声を抑えながら、笑顔で答えた。  「強くなったな。」  そう言って私が投了を認めた瞬間、彼は弾けたような笑顔を浮かべ、目には涙を浮かべて、手を差し出してきた。私たちが握手をすると場内にはアナウンスやファンファーレ、そして割れんばかりの拍手が響いていた。  息子は今や中学生プロプレーヤー、私もまた現役に復帰しそれなりの活躍を遂げていた。その二人が今、全国大会決勝で、こうして一騎打ちをしたことを、多くの方が見届けてくれた。  そこに妻はいなかった。
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