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二、若年夫婦
武田方についてしばらくは、私達は幸せだった。
貞昌も私も十代の半ば。恋愛というのも互いに初めてだった。遠い親戚同士、互いに奥平家の子として出会い、そして縁を結んだ。
自由に恋愛をした訳ではない。それでも私は貞昌を愛していたし、貞昌も愛してくれていた。とても幸せなことだと思う。
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「――おふう、見て、見て」
久しぶりに遠征から帰ってきた夫の第一声である。まるで子供のようにはしゃいだ様子に、私は無事を確信して安堵する。
「なあに」
「ほら来て、おふう、お土産だよ」
そう言って、笑顔で私の頭にシロツメクサで作った花冠を乗せる。人と争い人を斬り、のし上がることを生業とする若者のすることだろうか。その可愛らしい顔は、私より二つ上だということを忘れさせる。
「嬉しいけど、久しぶりに会って、最初がそれですか」
「あ! おふう、ただいま」
貞昌はひしと私に抱きついた。子供のような表情とは裏腹に、触れられてみればがっちりとした体躯だ。包まれると女として安心する。
でもその匂いは私を不安にさせる。鉄臭い。血だろうか、火薬というものだろうか。身体に染み付いて離れないのであろう、戦の香りがする。
「無事に帰ってくれたことが、一番嬉しいです」
「僕もまた、おふうに会えて良かった」
それでも私は幸せだ。結婚相手なんて親が決めることで、愛情などで寄り添うものではない。だから私達は互いに愛し合えているだけでも、愛せる相手と共に過ごせるだけでも、とても幸せなことなのだ。
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