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八、目覚めてしまった力
私達は急ぎ荷物をまとめた。
逃げる覚悟を決めたのだ。夫は武将としてよりも愛を、私は人質の使命よりも愛を選んだのだ。
こっそりと屋敷を出て、裏手の河川敷へと下りてゆく。このまま川を下っていけば、ここからは離れることが出来る。
大きな岩に飛び乗るために、貞昌が先に行って私に手を差し伸べた。
「おふう、掴まって」
私は貞昌の手を握った。
――その時。
眼の前がありとあらゆる色に包まれて、何も見えなくなった。ただ一つ見えたのは、四角い窓に映った光景のみ。
その光景に映った人物は織田信長様だった。そしてもう一人、信長様に跪くその相手は、誰あろう夫である奥平貞昌である。映像の中で、信長は自らの字を一文字、貞昌に与え「奥平信昌」と命名していた。
これはきっと大きな武勲をあげたことへの褒美である。
――私は元々、奥平家の人間である。
つまりこの絶妙な瞬間に、私は「潮目を見る力」を授かってしまったのだ。
これは在るべき未来の姿なのだ。
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