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一、徳川から武田へ
――武田と徳川の争いは激化していた。
私の嫁いだ奥平家は徳川家康方に従属していたが、武田軍に追い詰められた結果、武田方へと寝返った。もちろん、奥平貞昌の妻である私も。
奥平家には不思議な力があった。曰く、「潮目を見る力」だという。
武田方についた時も、その潮目を見た事がきっかけだったという。武田信玄という強力な個性が時代を作っていくという「潮目」を。
しかし、そう簡単に敵方の人間を招き入れるほど戦国の世は甘くない。
私を含む奥平家の数名は、人質として武田方に身柄を拘束される身となった。
だが基本的に拘束とは名ばかりで、奥平家の人間が武田として力を尽くしている間は、私は人質という扱いを受けることは無かった。武田の武将の妻として、普通の生活が出来た。
あくまでも「人質」というのは信頼を示すための肩書であるようにも感じられた。
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