追手の男達 その4

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 『才能』の光が弱まり、ボストンバッグの横にアリスは叩きつけられる。体中への痛みを認識したと同時に、アリスの目に映る世界はぐるぐると回転し始める。次第にその回転は緩やかになり、地面に生える雑草を終点にして止まる。 「う……」  (きし)む体と未だにぐらつく視界の中、アリスはどうにか立ち上がる。能力の発動によって彼等にモチーフが、そして居場所がばれた可能性がある以上、この場所に留まり続けるのは得策(とくさく)ではない。 「あの地図を……回収しないと」  アリスはふらつく足取りでボストンバッグへと辿り着き、その中にすっぽりと収まりながら(わず)かな輝きを残すその紙切れを手に取る。くしゃくしゃになったその紙に対し『才能』を使用し、元のきれいな状態に戻す。  この森の西、そこにどうやら街がある。まず目指すべきはそこだ。何か街への方向を示してくれるものは……。 「これは……」  鞄の中から手作りらしき小さな木箱が現れる。一面だけがガラスで出来ている。 「ちょっと何よこれ! 気持ち悪い!」  木箱の中で、金色のコインが赤い布に飾られていた。そして、そのコインの中心には白く濁った球体が埋め込まれていた。眼球だった。生物の顔部分にあるべきその部位がコインの中央に配置されている。それは一定の間隔で瞬きを繰り返しながらただひとつの方角を見つめ続けていた。瞳は常に僅かに揺れている。 「とにかくこれも何かのヒントになるかも……」  アリスはその木箱からコインを取り出す。 「う、うえ……」  中に入っていた赤い布でそのコインを包み、ポケットに入れる。少しばかり冷静になった肉体が、体を動かすたび痛みを訴える。    逃げるためとはいえ、乱暴な手段だったかもしれない。「戻す」才能……。これを自身に使うことができれば肉体を癒すことも出来るだろうか。アリスはそう思い至り、試しにガラス玉を強く握りしめながら願う。 「この体を元に戻して!」  ガラス玉に輝きが宿り、その光が糸になる。糸がアリスの体に向かう。しかしその糸は方向を見失ったかのようにして解けてしまう。 「あ……」  能力にはやはり限界があるようだ。アリスは注意深く周囲を観察する。まだ彼らはここに到達していない。 「今なら逃げられる……! でも、どこに……」  見渡す限りの森の中、アリスは考える。ブラウン、そしてメイとベルが現れた場所の二点を繋いだ延長線。その先に街があるかもしれない。  思い立つや否やアリスは走り出す。軋む体も、脳の疲労も、そしてコインの目玉がちょうどその進行方向を見つめていたことも、今は気にしている余裕などなかった。
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