ジョニー・ウォーカーがやってくる! その3

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ジョニー・ウォーカーがやってくる! その3

 巻き上がる土煙(つちけむり)の中、メイは動く人影を探す。まだ『才能』を使うわけにはいかない。距離を取られた状態で才能がばれてしまえばいくらでも対策を練られてしまう。奴は、それだけの警戒(けいかい)に値する。  ジョニー・ウォーカー。奴は無差別に人を襲い、その圧倒的な『才能』と戦闘能力で数々の人間を消してきた。そう街で噂されている。とにかく奴に出会ったのならまずは逃げろ、と。    しかし弟がバラバラにされ、完全に対面した状態。こんな状況で逃げるという選択肢を取ることは、メイには出来なかった。 「出てきやがれ……一発お見舞いしてやる」  自身を鼓舞(こぶ)するかのようにメイは呟く。とにかくあの手だ。触れられなければ勝機は必ず来る。才能をフルで使い、奴の考えの先回りをし防御する、そしてその間でモチーフを探し出す。メイは一旦の目標をそこに定めることにした。残念ながら『特定』の才能でもモチーフを見つけることは出来ない。メイはそのことを理解していた。  揺れる土煙が薄くなり、メイはようやく人影を発見する。と同時、視界がガクンと落ちる。  足元を見ると、そこにはブロック状に分解された地面があった。一瞬浮かんだ地面の上でバランスを崩し、メイはよろめく。すぐに人影があった方向と逆の方向へと移動する。  新たに立った煙がばっと開け、先程までメイがいた場所目掛けて黒い手袋をした手のひらが掴みかかる。空振りをしたその手はすぐにまた煙の中へと消えていく。 「ジョニー・ウォーカー! 正々堂々俺と戦え! この腑抜け野郎!」  そうメイが叫ぶと、拍手が聞こえる。ジョニーだった。ひとしきり拍手を終えたジョニーは煙を払いながらメイの目前へと姿を現す。 「全く君には参ったね。 僕のことが嫌いなのかな」 「さっきの質問に答えてやる。 名前はメイだ。 勿論(もちろん)お前がこれから先この名前を聞くことはないがな」 「ああ、そりゃ君はガタガタ震えながら僕から逃げることになるんだからね。 ああ、いや……」  ジョニーは両手をぽんと叩き合わせる。 「失礼、消される方をお望みかな」  メイはその言葉を聞くや否やジョニーに殴りかかる。ジョニーはそれを左の拳で軽く受け流す。  メイは才能を発動する。胸元が輝き、メイの目に『特定』の能力が宿る。 「おや、良いのかい? いきなり弱点を明かすようなことをして」  ジョニーが不思議そうに目を丸める。 「弱点? 狙えるもんなら狙ってみろよ。 返り討ちにしてやる」  ジョニーの右手がメイを狙う。狙いは当然胸元の輝き。それを読んでいたメイはジョニーの右手首を左手で掴み、そのまま自分の脇あたりまで引っ張る。  握りしめた右の拳でジョニーの顔を殴ろうとしたその瞬間、ジョニーの体勢が全く崩れていないことに気が付く。  彼は右手首から先を切り離したのだ。だが片手を奪うことには成功した。自らの有利に変わりはない!  そうメイが思った時、彼はもうひとつの変化に気が付く。ジョニーの左腕。そちら側の手首から先も既に存在しない。  再びメイの視界ががくっと落ちる。右足の膝から下が崩れるのをメイは感じた。と同時に蹴りによってメイは弾かれ、掴んだはずのジョニーの右手首を落とす。  後方へと転がったメイは左足と腕で自らの体を支え、またジョニーを見据える。 「僕の才能、面倒なことに触った部分しか『分解』できないんだよ。 脳のある頭に触れば一発なんだけどもね」  ジョニーは落ちたふたつの手首を回収しながら話す。メイは疑問を感じる。何故才能を発動する時の輝きがこいつにはないんだ……?これではモチーフを発見することなんて出来ない。  そんな疑問に答えを出す暇もなくジョニーは手首をはめ、開いて閉じる。そして微笑む。 「さ、ラウンド2だ。 遊んであげよう」 「クソが……」  メイが敗北を確信しかけたその時、ジョニーの後方の土煙がばっと晴れ、ジョニーによって分解された木のブロックが飛んでくる。  ジョニーはその攻撃に即座に対応する。半身だけ振り返り、木を右手で受け止めたかと思うと、その木のブロックはバラバラに崩れ落ちる。 「おやおや」  余裕綽々といった様子のジョニー。その先にいたのはアリス、そして元の状態に『戻った』ベルだった。  アリスに支えられ、ベルは右手を突き出している。『自動追尾』。それがベルの才能だった。木片をジョニーに向かって『追尾』させたのだ。 「順番を間違えた。 アリス、君の処理が先だったな」 ふふ、とジョニーは笑い、アリスとベルに向かって歩き出した。
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