ジョニー・ウォーカーがやってくる! その4

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「アニキ! 何やってんだよ! もう良いよ! 助かったんだよ俺達!」  そんなベルの声が聞こえていないかのようにメイはジョニーを睨み続けている。 「何かな?」  煙草をくゆらせながらジョニーは尋ねる。 「あんたはここで、俺が始末する」 「無理だよ。 君はさっき僕に負けたんだから」 「もう負けはしない。 それに、あんたに怯える生活なんてもうまっぴらごめんだ。 恐怖は必ず克服(こくふく)しなくちゃ気が済まない性分(しょうぶん)なんだ俺は」 「真面目だなあ。 生きるの大変だろ? 君」 「人は苦労によってのみ成長するんだ」  一歩も(ゆず)る気のないメイに、ジョニーはため息をつき、両手をポケットから出す。 「分かったよ。 君、面白くないから気乗りしないけど」 「行かなきゃ……」  ベルが呟く。 「アニキを助けなくちゃ」 「む、無理よ! あんな相手あなた達ふたりじゃ……! 分かった、私も手伝うわ!」  アリスの提案を、ベルは目を向けることなく手で制止する。 「確かにあんたの才能はあいつに有利だよ。 でもちげえんだ。 これは、俺とアニキの問題なんだ。 あいつは怖いけどよォ……でも多分克服しなきゃいけねえ」 「……」  真面目に話すベルには、どこかメイと似た圧や説得力があり、アリスは黙り込む。 「それによ、俺もアニキに良いとこ見せねえと後で怒られちまう」  けけ、と軽く笑うとベルはアリスの方を向く。 「これで貸し借り、なしだぜ」  ぽん、とベルの震える手がアリスの肩に触れると、ベルの胸元が輝き、その輝きはアリスをも包み込む。 「じゃあな」 「ベル!」  アリスが叫ぶと同時に、その輝きが生んだ引力がアリスの全身を宙に浮かせ、引っ張る。 「メイ! ベル!」  そして、アリスの視界に映った三人はどんどんと遠のいていき、見えなくなった。  手の平のような温かい光の中、アリスの体からは力が抜け、意識が溶けていく。薄れゆく意識の最中(さなか)、アリスは夢を見る。  誰かと、星を見る夢。アリスは未だ、その夢のことも、そして今いる世界のことも、何も知らないのであった。
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