まるまる一日と十五時間三十二分

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まるまる一日と十五時間三十二分

 アリスが目を覚ますとそこは、小さな部屋の中だった。彼女はベッドで寝かせられ、ご丁寧に布団までかけられていた。ベッドの隣には小さな木のテーブルがあり、そこには水の入ったグラスとスープらしきものが木の容器に入れられている。 「……」  アリスは目だけを開け、しばらく呆然(ぼうぜん)としていた。猫、ブラウン、メイ、ベル、そしてジョニー・ウォーカーのことを思い出し、揺蕩(たゆた)う意識の中をゆったりと歩いた。  ポケットの中にガラス玉と、布で包んだコインがあることを確かめる。体はどこもかしこも軋むように痛い。 「ここは……思い出せない」  自分自身の存在を確かめるようにアリスはひとりごちる。当然、返事はない。  ゆっくりと体を起こし、世界の空気と自分自身の精神とを馴染ませる。腕には包帯が巻かれ、そしてそれは誰かがアリスを治療したことを示すものだと理解した。  部屋には時計がいくつも配置されていた。同じような音を立てながら彼らは時を刻んでいる。  本棚、作業テーブル、そして椅子。そしてアリスが寝ていたベッド。それだけがこの一室に存在する家具の全てであった。 「随分と質素な部屋ね、時計は妙に多いけど……」  時計の針が動く音が、自然とアリスの心に立つ波を鎮めていく。時間を見なくとも窓から差し込むぼんやりとした白い陽の光が、朝を知らせていた。  アリスはベッドから降り、足元にあった自分の靴を履く。  幾度の戦闘によって随分と傷んでしまったのは靴や衣服も同じであった。ここがもし街であるのならそういったものを新調したいものだわ、いやまずそれよりも体を洗いたいわね……。  そうアリスが考え込んでいると、ドアの開く音が聞こえる。 「お、起きたんだ」  そこにはアリスと同じ程の年齢と思われる少年が立っていた。  うねった黒髪に丸眼鏡、その奥には少しばかり意地の悪そうな吊り目が覗いていた。シンプルな白いシャツとデニムパンツのその少年は手首に巻いた腕時計を確認しながらアリスに声をかける。 「おはよう。 君はまるまる一日と十五時間三十二分、そのベッドで寝ていた訳なんだけども、気分はどう?」  ああ、なんだか彼とはとても気が合わなさそうだわ、とアリスは思った。
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