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暗い穴とガラス玉
永遠のように続く暗い穴を落ちながら、彼女は夢を見ていた。確かにそれは、彼女の過去を辿る夢。今この現実よりも遥かに現実。彼女が覚えているのはただそのひとつの夢だけだった。誰かと星を見る夢......。
天と地の方向をも見失う落下の中で、彼女は自らについて考え続けた。年齢、住所、特技、好きな食べ物や好きな男のタイプまで。考えれば考えるほど分からないことばかりが増える。彼女はまだ、名前も持たなかった。
彼女にとって全ての手がかりになり得るものはふたつしかなかった。誰かと星を見る夢、そして
「これは......」
彼女の黒いワンピースのポケットには、濃い青色をしたガラス玉。それだけが入っていた。彼女が覗き込むとそれは、夢で見た夜空を思わせる景色を奥に映した。
彼女はまだ、落ちてゆく。遠く見える丸い月は、既に彼女の持つガラス玉より小さくなっていた。彼女はそっと目を閉じ、再び星を見る夢に潜っていった。
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