カナリアとコイン

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カナリアとコイン

「それじゃあ、よろしく頼んだよ」  遅れてやってきた数人の男達はスペードに対し(うやうや)しく頭を下げると、倒れた男達を背負って去っていった。 「スペードってもしかしてすごい人なの?」  アリスの問いにスペードは笑う。 「はは、そんな大層な人間じゃないよ。 私は私。 スペードでしかないよ」 「あの……」  はだけた服を整えながら、襲われていた女性が声を発する。 「ああ、ごめんね放ったらかしにしちゃって。 怪我はない?」 「はい。 助けていただいてありがとうございます……。 私、ブラウン商会のカナリアと申します」  カナリアと名乗るその女性は、小包みのようなものを抱えながら頭を下げる。 「ああ! ブラウン商会の子だったんだね。 なんだってあんなに追い回されてたんだい?」  アリスはブラウンのことを思い出し、何とも言えず気まずくなった。そんなアリスに気が付いたスペードがアリスに微笑みかける。  しばらく迷うような表情をした後、カナリアは小包みをゆっくりと(ほど)き、中から小さな木箱を取り出す。 「これを……ある人に渡して欲しいんです」  アリスはその木箱に見覚えがあった。  ブラウンの鞄の中にあったあの木箱と同じものである。  ガラス張りになった一面から、確かにアリスが持っているコインと同じものが覗く。 「あ、あれ……?」  カナリアは自身で取り出したその木箱の中を見て不思議そうな顔をする。 「どうかした?」 「あの、このコインなんですけど実はふたつでセットなんです。 それで、お互いの場所を見つめ合うってものなんですけど、このコイン目を瞑ってるんですよ……」 「あ、あの!」  アリスにふたりの視線が集まる。 「えっと……これ……」  アリスはポケットから取り出した赤い布を解き、コインを見せる。コインの目は閉じられていた。 「それは! もしかして、ああ……ブラウンさんは本当に……」  申し訳なさそうなアリスと、今にも泣き出しそうなカナリアの様子を見かねたスペードが間に入る。 「あーっと、カナリアちゃん。 あのね、不可抗力だったんだよ。 ブラウンが先にこの子にさ……」 「いえ、良いんです。 ブラウンさんは商会のメンバーに常々言っていました。 自分がもし消失することがあったとしたらそれはツケが回ったからだ、だから仕方のないことだって……」 「……」  アリスは何か彼女に声をかけるべきだと思ったが、適切な言葉を見つけることができず、ただ(うつむ)いた。 「そっか……。 まあこんな世界だからね、アリスちゃんも気にすることはないよ」  スペードがアリスの肩をぽん、と叩く。 「まあ、落ち込んでも仕方ない! それよりカナリアちゃんの話を聞こうじゃないか。 一体何があって、そのコインを誰に届けるのか聞いておかないと」  そうまとめると、スペードは振り返り、落ちたふたつのソフトクリームを見て 「……片付けもしなきゃね」  と言った。  
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