提案と悪い癖

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提案と悪い癖

「さて」  周囲への警戒(けいかい)を怠ることなく、スペードが話し始める。 「四人でぞろぞろ行っても仕方がないよね」 「そうだな。 見つかりやすくなるってのは避けたいところだな」   ヘンリーも補足を加えつつ、スペードの意見に賛同を示す。 「カナリアはきっとどこに行っても狙われるわよ」 「確かにその通りね」  街の中は人で溢れている。カナリアは深くフードを被り、黙って下を向いていた。  もはや街のどこに敵がいるかもわからない今、過剰とも取れるその対策も意味を持つ可能性がある。スペードがそう語った通り、その変装にはどうやらそれなりの効果があるようだった。 「やっぱり予想通りね」  スペードが周囲に目配せして三人に教える。 「実はトレイの人に連絡しようと思ったんだけどさ……。 ほら見てあそこ。 あのトレイの構成員、見回りのフリして人の顔を確かめて歩いてる」 「本当ね。 それも特に女性を中心に」  スペードが舌打ちをし、参ったな、と小声で言う。 「すみません……。 ご迷惑おかけしてしまって……」  カナリアが小声で謝罪する。 「いや、申し訳ないのはこっちだよ。 こんな事件に巻き込むことになっちゃってさ」  大きな動きにならないよう気にかけつつ、スペードは手を振って答えた。 「とりあえず、どうする? カナリアを置いていくわけにもいかないよな」  ヘンリーの問いかけに対し、間髪(かんはつ)入れずカナリアが答える。 「私が(おとり)になります」 「え?」  カナリアの突然の提案に三人は驚く。 「いやいや、ちょっと待ってくれ。 それはリスクが高すぎる」 「いえ、私の『才能』なら多少は時間を稼げるはずです。 今大事なのは何より、そのコインを届けることですから」  フードの奥に覗くカナリアの瞳は黒く輝いていた。 「私の才能は『コピー』です。 これを使えば分身に似たものを作り出すことも出来ます」  ふふ、とスペードが笑う。 「カナリアちゃん、あんた面白いね」  少し考えた後に指を弾く。 「乗った! そこまで言うんなら私とコンビで動こう。 全力でサポートするし守るよ」 「スペード、悪い癖だぞ。 また勢いで行動しようとしてるだろそれ」 「まーったく。 頭が固いんだよなヘンリーちゃんは。 大丈夫だよ、私がいれば何とかなるって」  はあ、とヘンリーがため息を吐く。それはスペードのこういった言動がこの一回きりでないことを示していた。 「じゃあ、私はヘンリーと組んでGhost`s lipね」 「はは、アリスちゃんは流石、物分かりが良いね」  ヘンリーが再びため息を吐く。今回はアリスを含めてのものだった。 「ヘンリー、確かにあなたと組むのはちょっとだけ嫌だけど……。 この際文句は言っていられないわね」 「……分かったよ。 アリス、そうと決まれば足を引っ張ることは許さないからな」  アリスは眉間にしわを寄せて不快感を示す。 「ふん、本当生意気でむかつくわねあなた」  スペードがいしし、と笑う。 「アリスちゃんの調子も戻ったみたいだし、善は急げだ。 いつ敵が追ってくるとも限らないから十分に気を付けるんだよ」 「はいはい、分かったよ頑張りますよ」  ヘンリーの返事とともに、四人は別方向に分かれていった。
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