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陽動
アリスとヘンリーが街の外、森の方へと向かうのを視線の隅で確認した後、スペードはカナリアに話しかける。
「『コピー』の才能ってことは、ブラウン商会の商品を大量生産する役割だったんだね」
「ええ。 仰る通りです。 そのおかげでブラウンさんからはかなり手厚く守っていただいておりました」
「なるほど。 ちなみにカナリアちゃん、何となく他のメンツの才能とかは把握してる?」
「いえ、同じ商会と言えどそこは皆さん秘密でしたね。 やはりどうしても自身の存在に関わることですから」
それが大した問題ではないかのようにスペードはふんふん、と頷く。
「さて、場所をどうしようかね。 さっきの様子を見るに街中だろうと構わず襲ってきそうだね。 おまけに……」
トレイにも協力者がいるからね。その言葉をスペードは飲み込む。その事実に気が付けなかった自分自身や、街の秤を名乗る組織の内部に蔓延る悪に対する苦々しい感情がスペードの中に渦巻いていた。
「スペードさん……?」
「いや、大丈夫。 ごめんごめん。 どうせ戦うなら人の少ない場所が良いね」
「そうですね。 集団で襲われるのは避けたいところです。 こちらはふたりですしね」
「だね。 コピーで街の隅におびき寄せて出来るだけ少しずつ片付けていこう」
言い終わると同時に、スペードはカナリアの背中を軽く叩き、指で進行方向を示す。それに従うようにカナリアも動き出す。
「連絡されてしまったらどうしましょうか」
カナリアが心配そうにそう問いかける。
「その場合は適当に撒いちゃおっか。 私達の目的は陽動だからさ、倒すのはまあおまけみたいなもんさ。 ところで才能のルールみたいなものってある?」
カナリアは少し考えながら答える。
「うーん……。 そうですね。 私も才能をこういったことに使ったことがないのであまり分からないんですが……」
速度を緩め、カナリアは右手で小石を拾う。周囲を確認して敵の不在を確かめると才能を発動する。胸元でうっすらと放たれる光がカナリアの左手にじんわりと移っていき、それが右手のそれと全く同じ形を練り上げる。
「まずコピーするには触れている必要があります。 さらに私の視界に入っていることがコピーの存在条件なので少なくとも近くにいなければいけませんし、目を開けたままでいなければなりません」
カナリアが目を閉じると左手の石が細かい光の粒子となって消える。
「おっとそうか、そうなると私の才能と少し相性が悪いかもしれないね」
「スペードさんの才能ですか、もし問題なければお聞きしてもよろしいですか?」
スペードはにっこりと笑って言う。
「うん、全然良いよ。 先にカナリアちゃんが教えてくれたからね」
スペードは続ける。
「私の才能は『閃き』。 分かりづらいかな? 例えば光を放ってみたり、少しだけ加速してみたりがメインだね。 まあそんな大した才能じゃないよ」
「なるほど確かに、相性は良くないのかもしれませんね……。 私が眩しさから目を瞑ってしまう可能性がありますもんね」
「んー、そうなんだよね」
考えに沈みそうになるスペードにカナリアが続ける。
「いやでもスペードさん。 逆に言えばその光で敵の目をくらませている間にコピーを消すことが出来れば……」
「なるほど! 良いアイデアだ。 カナリアちゃんなかなかキレ者だね」
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