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追手の男達 その1
アリスはただ闇雲に森の中を走っていた。木々のざわめきの中から動物達が驚き逃げる音がする。追手の足音は既に聞こえない。それでもアリスは走った。森を出るまで安寧はない。そう悟っていたからだ。
だが、同じ風景をただ見せられているかのようなその森の中で、確かにアリスの体力は限界を迎えようといていた。
「ッ!」
アリスは足元にあった木の根に躓き、その場に転倒した。
「早く……早く逃げないと」
切れる息、痛む足、揺れる視界。アリスは自分自身でもこの逃避の終わりが近いということに気が付いていた。
周囲から足音はまだ聞こえてこない。アリスは近くの木の影に座り込み、左手の中でくしゃくしゃになった紙切れを取り出す。
「取り敢えずこれだけは手に入ったわね……」
それは地図というにはあまりに頼りない地図だった。森と小さな街。それだけが雑に記された手描きの地図。おそらくブラウンの描いたものなのだろう。
アリスは周囲の状況を確認する。とにかくこの森を抜けるか何か、現在地を特定する方法を一刻も早く見つけなければ。
しかし……
「おい嬢ちゃん。 どこに行こうっていうんだよ」
いつの間にか後方、数メートル先の位置に追手の男達が立っていた。背の高い男と、低い男。顔の作りはとても似通っている。
ふたりはケタケタと不愉快な笑い声を立てる。まずい、もう見つかってしまった。アリスはガラス玉を握りしめる。
「俺達から逃げられるなんて思わないでくれよなあ〜」
小さい方の男が野次を飛ばすかのようにそう言う。喋り方はこちらの方が粘っこくて嫌だわ、とアリスは思った。
「さあ、早くモチーフを渡しなよお嬢ちゃん。 嫌な思いをしたくなければ、ね」
「嫌よ、絶対に渡さないわ」
「アニキィ、こいつ生意気な女だぜぇ」
アリスは息を整えながらこの窮地を脱する術を考えていた。この『戻す』才能だけではこの状況を打破するには足りない……。どうやら相手にはまだこちらの才能はバレていない。だがそれはこちらも同じ。相手の才能を暴くことができなければ無駄な行動は不利を招くだけ……。
もっと早く接近に気が付いていれば……。
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