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追手の男達 その2
話は少し前に遡る。
ブラウンの消失、そして記憶の流入を体験したアリスは数分の間その場に立ち尽くしていた。
アリスにとってそれらは処理能力の限界を超えるものだった。そして彼女は流れ込んだ記憶に対して、確かだと言い切れる自身の記憶の欠片を掴んでいた。
あの店を私は知っている。そしてあの男ブラウンとも、私はおそらく面識がある……。アリスは不思議な感覚に襲われていた。一切の繋がりが絶たれた記憶の欠片。それが脳に直接浮かんでくるような感覚だった。その現象はそうとしか説明が付かなかった。
しばらくしてアリスは情報の処理を諦める。ブラウンがああして襲って来た以上、ここに居続けるのは危険かもしれない。その判断からである。
「あの鞄は……」
ブラウンが現れた木陰には彼の所有物らしき鞄が残されていた。
「あの中に何か役に立つものはあるかしら。 今は倫理観だとか言っている場合ではなさそうだし……ちょっと失礼するわね」
アリスはそのバストンバッグを開け、中身を確認する。中には大量の綿が詰まっていた。
「ちょっと……こんなところまで見栄っ張りなわけ?」
アリスは呆れながらもその中をまさぐる。大量に詰められた綿を取り出す中でアリスは小さな財布と紙切れを発見する。
財布の中には見たことのない紙幣とコインが数枚ずつ、それからどこかの店のポイントカードのようなものが一枚入っていた。アリスはそれを確認するとポケットに入れた。
「使う人がいないんじゃ無駄になっちゃうものね。 無駄にするのは良くないことだもの、仕方がないわ」
少なからずその行為に罪悪感を抱いたアリスはそんな言い訳と同時に辺りを見回す。当然誰もいるはずはなかった。
「この紙は……何かしら」
几帳面に畳まれたその紙切れを広げようとしたその時、背後から声がした。
「おや、追い剥ぎかなお嬢ちゃん」
驚いたアリスは振り返る。そこには確かに、ふたりの男が立っていた。先程までは存在していなかったはずの男達の出現に、アリスは驚愕する。
「ど、どこから……」
「どこからってお嬢ちゃん。 そりゃ秘密だぜ。 俺たちの『才能』に関わることだからな」
長身の男がそう言うと、一歩後ろにいる小柄な男がニタニタと笑う。彼らの目的は明白だ。
ガラス玉。ブラウンがモチーフと呼んだそれは、自身の記憶の獲得に必ず必要なものなのだ。アリスは自身の経験からそれを学んでいた。絶対に渡すわけにはいかない。渡せば存在が消えてしまう。そのこともアリスはしっかりと認識していた。
加えて今度はふたりが相手。圧倒的に分が悪い。
そして彼女はブラウンの時もそうしたようにすぐに逆方向に向かって走り出した。
とにかく今は逃げなければ!解決の糸口を必ず掴んでみせる。アリスはとにかく真っ直ぐに森の中を駆けて行った。
そして話は戻り、アリスはその糸口を未だ掴めずにいた。
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