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いずれにしろ、彼とはもう会えなくなってしまう……彼のいない世界でなんて、わたしはもう生きていたくない。
彼と離れ離れになるくらいなら、いっそこの世界からもさよならしてしまおう……。
人生に絶望したわたしは、マンションの屋上から飛び降りてすべてを終わりにすることにした。
死んだらすべて終わりだ……まさに死別。意識も無に帰り、彼と別れることも……いいえ、彼の存在を認識することすらしなくなるのだ。
そう思うと、これでやっと楽になれると安らぎすら感じながら、わたしは屋上の柵をよじ登り、その縁から一歩を踏み出した……。
「…………?」
ところが、ふと我に返るとわたしは彼の部屋の前に立っていた。
なぜ、そこにいるのかわからない……確かに屋上から身を躍らせたはずなのに……なんとなく、道路の真ん中で血の海に浮かぶ、手足があらぬ方向へと曲がった自分の姿を見たような気もするが……。
ああ、そうか……わたしは幽霊になったんだ……。
しばらくして、わたしはようやくそのことに思い至った。
死後も、私の意識は消滅しなかったのである。
意識があれば、思うことは一つだけ……もちろん彼のことである。
死んでしまったけど、なんとか彼との縁を戻したい……いや、死んだのだから、もう警察に邪魔されることもないじゃないか!
わたしは生前と同じように、彼がわたしの方を振り返ってくれるよう、なおも頑張り続けることにした。
「ねえ、開けて! ここを開けてよ!」
最初はなんの抵抗もなく、まさに暖簾に腕押しでまったくできなかったが、コツを掴むと生きてる時と変わらないように、チャイムを鳴らしたりドアをノックすることができるようになった。
そのくせ、幽霊ならドアや壁をすり抜けられると思ってたのになぜかそれはできない。まあ、幽霊はそういうものなんだろう……。
だから、やはり生前同様、わたしは彼の部屋の前で彼がドアを開けてくれるよう、何度も何度もドアをノックし続けた。
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